1. 研究テーマ:物理法則は“現場で使えるのか?”

学校で学ぶ力学(モーメント・張力・仕事量保存)は、多くの生徒にとって「公式の暗記」に見えがちです。
しかし、星野村の現場ではこれらの公式が“本物の大問題を解く道具として機能する”ことを体験できます。

今回の課題は、「樹齢50年・根回り直径25〜35cmの茶の木を、重機を使わずに引き抜く」という、リアルな除根作業の実験です。

2. 課題の難しさ:根は地面に埋まった“巨大な錨”

茶木は樹齢が増すと、根は太く硬く、地下に広く広がります。
地中深くに張った根、土壌の抵抗力、樹木自体の重量(200~300kg規模)。これらが合わさり、人力ではほぼ不可能とされる作業です。

つまり、この実験そのものが「物理を応用して現実を変える」という課題になります。

3. 装置づくり:三脚 × 滑車 × チェーン

星野村では、以下の装置を自分たちで組み上げました。

① 三脚構造(トラス)の構築

高さ4mの木材3本を組み、三脚を作ります。支点の安定性、加重の分散、ベクトル方向の調整。
三脚構造は、実際の工事現場でも使われる“最小装置で最大安定”の設計です。

② 滑車(プーリー)の設置

三脚の頂点に滑車を吊り下げます。これは力の向きを変え、必要張力を軽減する(場合によって1/2〜1/3に)ための装置です。
複数滑車を組み合わせると、小さな力で大きな重さを持ち上げることが可能になります。

③ 長いチェーンでの牽引

茶木に太いチェーンを巻き付け、それを長いチェーンで引きます。
チェーンが長くなるほど、「少ない力 × 大きな距離」=仕事量一定の法則によって、必要な力は小さくなります。

4. 実験の核心:1,000kgを動かす「物理的な根拠」

実験で確認できるのは仕事量保存の法則(W=F×d)です。

実際に起きている現象

樹を引き抜くのに必要な仕事量Wは一定です。
しかし、力Fを小さくしたければ、距離dを大きくして引けばよいという“力学の本質”を体で理解します。

  • 滑車の効果:滑車を2連にすると必要な力は1/2、3連だと1/3。
  • 実働の数値イメージ:茶木と根の抵抗は600〜1,000kg相当。二連滑車+長いチェーンを使えば、必要張力は約200〜350kgとなり、人力でも「複数人」で実現可能なレベルになります。

実際に、参加者数名が力を合わせてチェーンを引き、大木が「メリッ」と音を立てて浮き上がりました。
教科書で読んだ“1/2”や“1/3”が、本当に目の前の木を動かす。これ以上の理解はありません。

5. 工学的学び:構造 × 力 × 安全性

現場の物理は、机上とは違い「安全性」と不可分です。

  • 三脚の角度が浅すぎると転倒する
  • 支点の摩擦・摩耗を考慮
  • 荷重方向の分散
  • 破断リスクのある装置の見極め

工学部志望の生徒にとって、“物を動かす=構造と力の管理”という基礎を理解するための貴重な経験になります。

6. 志望学部ごとの“研究テーマ化の例”

工学部(機械・土木・建築) 滑車系の力学分析、応力集中・張力・破断荷重の検証、三脚構造の安定性解析、重機代替の簡易装置研究
理学部(物理) 仕事量保存の実証、張力のベクトル分解、摩擦・熱エネルギーの損失分析
農学部 根系構造と土壌条件による抵抗差、引き抜き後の土壌回復
経済学部 重機不使用の低コスト除根モデル、小規模農家向けDIY農業機械の研究
法学・政策 森林管理・農地整備に関する政策的論点

7. プロジェクトの価値

この活動は、単なるアクティビティではありません。
物理の法則を“実務レベル”で理解し、教科書と実世界の距離を縮める。
工学部志望者に必須の「構造思考」を体得し、問題解決型の学び(PBL)が成立する。

大学入試では何よりも重視される「知識の社会実装力」がそのまま証明できるプロジェクトです。